『何者』ネタバレ感想と解説 ゾワッと鳥肌の立つ異色青春群像劇


映画『何者』予告編

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『何者』作品情報

2016年日本映画。
「桐島、部活やめるってよ」の原作者として知られる朝井リョウが直木賞を受賞したベストセラー小説を、『愛の渦』の三浦大輔監督が映画化した青春ドラマ。出演:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之。

『何者』あらすじ

演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。22歳大学生の5人は、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就職活動に励むが、人間関係は徐々に変化していく。

『何者』ネタバレ感想と解説

22歳。このあたりの年齢は、社会へ出る現実に直面し、自分が『何者』であるかというアイデンティティーの確保に苦悩する時期であることを、そうだ思い出した。

この映画を、就活を頑張る若者たちのただの青春群像劇として観ると痛い目に合う。よくある青春映画とは一線を画す、若者たちの心の内側を大胆に暴露した秀作である。

特に演出が素晴らしいと思った。クライマックスに至るまでの階段をほぼ完ぺきに描いたと言える。現代社会を反映するツールであるSNSが物語のキーとなるところも大変意義深い時代考証となった。

さてここからは、そんなアイデンティティーを模索する若者たちの映画『何者』の登場人物と物語を詳しく解説・考察していきたい(ネタバレ含む)。

各キャラクターの性格

映画『何者』では各キャラクターの性格付けがしっかりとされている。

主人公である二宮拓人(佐藤健)は「冷静分析系」。

拓人の友人でバンドマンの光太郎(菅田将暉)は「天真爛漫系」。

拓人の片思いの相手瑞月(有村架純)は「地道素直系」。

瑞月の留学仲間の理香(二階堂ふみ)は「意識高い系」。

理香の彼氏の隆良は「空想クリエイター系」。

サワ先輩は「達観先輩系」。

このように各キャラクターの個性が明確なので、観客は自分に近いキャラを探す楽しさもある。またキャスティングも、それぞれの系に近い役者を選んでいるので、違和感のない演技を披露してくれた。

細かい部分を抜きにして、往々にしてみんな上手だったと思う。佐藤健のモテない拓人の演技も見事だった。

観察者拓人

拓人はいつも冷静に構えて就活や人を分析する。言葉は少なげで感情表現の乏しい人間だが、時折ズバッと問題を指摘し、周囲から頭がキレると思われている。そして自分でも頭がいいと思っており、「さすがですね」という言葉は彼にとって非常に心地いい。そんな冷静沈着な自分を誇っているし、常にそんな自分を演じている。

だが実は、彼が自分のアイデンティティーを担保しているのは、そこだけである。

ラストにすべてが暴露されるが、映画序盤でも彼の本性は垣間見える。それはギンジへの「痛い奴」という皮肉の言葉や、しょっちゅう他人のSNSを気にしている様子から伺える。

拓人の本音は、ツイッターの裏アカウントによって暴露される。そこでは赤裸々に、ギンジや仲間を見下すことによってアイデンティティーを保つ拓人の姿があった。

拓人とギンジ

拓人はギンジを強烈に嫉妬し憎んでいた。それは自身の姿をギンジに「投影」していたからである。

簡単に言うと「俺が我慢したり抑え込んだりしていることを、なんでお前は平然とやっているんだ!」ということ。

拓人は演劇の夢を諦め我慢して就職活動を頑張っている。しかしギンジは拓人の諦めた夢を追って自由に羽ばたいている。こんなことは拓人にとっては耐えられないことである。

だから自己防衛機能が働き、ギンジを「痛い奴」と見下すことで自分の中でこの問題にケリをつけているのである。

ギンジは心の奥にしまい込んだ本来の拓人の姿なのである。

なのでサワ先輩は「ギンジはお前に似てるよ」と言ったのだ。

拓人は何故モテないのか?

拓人は周囲から尊敬され、冷静で頭がキレルし脚本を書く才能もあるし、一見モテるように見えるが、モテない。

その原因は、女性から見ると、拓人からは常に壁を感じるからである。

その壁とは、前述している、彼がコンプレックスを隠すために演じている「頭の良いキャラ」のせいだ。

拓人は感情表現に乏しい、喋るときもボソボソと喋る(この演出は素晴らしい)。また、瑞月をさん付けで呼んでいたのも、彼の自信のなさが露呈されている。バカで実直で天真爛漫な光太郎とは正反対である。

冷静分析キャラという偽物が壁となって、本来の拓人を覆っているのである。

だから、男より直感の優れる女性からすると「この人なに考えているか分かんない」と大きな壁を感じる。ミステリアスを感じさせるならモテるが、拓人の場合「キモチワルイ、ツマンナイ」となる。

瑞月は素直なので、実直でありのままの光太郎に魅力を感じる。だって安心するから。嘘がないから。瑞月は直感的に見破っているのだ。拓人が殻の中にいることを。嘘っぽいことを。

「ダウト!」だ。

映画から読み取れるこの非常に鋭い考察は、全男性に通じるものなので心得てほしいと思う。単純にいうと、馬鹿で明るい奴はモテる!カッコつけて頭良い自分を装っている奴はモテない!ということです。それは就活でも同じ。

瑞月による救い

好きな人に振り向いてもらえず、就活もままならない拓人。もてない、受からない、何にもない。

これが拓人の本当の姿であることがラストで暴露される。

そんな自分の本来の姿(コンプレックス)を受け入れられないが故に、裏アカウントで仲間を全力で否定していた。

人を見下すことで、自分の優位性を保てた。『何者』でもない自分が『何者』かになれた。他者より優れた『何者』かという偽りの自己が、拓人を支えていた。しかし理香に本当の姿を暴露された拓人は、自我が崩壊寸前に追い込まれ、逃げ出す。

偽りの自己が粉々に砕け散った先にいたのは、瑞月だった。
瑞月は優しく語りかける「わたし、拓人君の考える話、好きだったよ」。

演劇をがむしゃらに頑張っていたダサくて痛い自分。自分でさえ否定していた自分。

そんな本物の自分を肯定してくれた瑞月の言葉は、何よりも彼を救ったのである。

拓人はようやく『何者』でもない『本当の自分』を受け入れ、再生へと一歩踏み出していく。

※本文の無断使用・複製を禁じます。

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