『運び屋』予告編動画
『運び屋』作品情報
2018年アメリカ映画(原題:The Mule)。
2014年の『ニューヨーク・タイムズ』の記事「The Sinaloa Cartel’s 90-Year-Old Drug Mule」を原案にクリント・イーストウッドが監督と主演を務めたクライムドラマ。脚本は『グラン・トリノ』のニック・シェンクが担当。キャスト:ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、アンディ・ガルシア、ダイアン・ウィースト、アリソン・イーストウッド他。
『運び屋』あらすじ
デイリリー栽培の園芸事業で一時代を築いたアール・ストーン(クリント・イーストウッド)だったが、時代の変化に対応できず事業は破綻。家族にも愛想をつかれ寂しい余生を送っていた。
そんな折、孫の結婚式に出席した際、車で物を運ぶだけの簡単な仕事があると紹介されたアール。一度は断ったものの、魅力的な報酬額につられ気軽に引き受けるのだったが…。
『運び屋』感想評価
前半は映画『運び屋』の感想と評価、それ以降はあらすじを追いながら作品の解説(ネタバレ)をしています。映画への新しい発見があると思いますので是非最後までご覧ください!
まだまだ元気なお爺ちゃんクリント・イーストウッドが『グラン・トリノ』以来の自身監督作での主演を務めた『運び屋』は、レオ・シャープという老人の麻薬の運び屋の実話をベースに描かれたクライムドラマです。
2014年の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された記事から着想を得て映画化となりました。世界的な評価は高く、興行収入は1億6000万ドル超えの大ヒットとなっています。
映画化に際してイーストウッドは、このレオ・シャープという人物を色々と調べたのですが、彼を知る人間を見つけることができなかったそうです。なので想像を膨らませて人物像を作り上げました。
よって半分が実話、半分が脚色といった感じですね。現在88歳のクリント・イーストウッド自身の人生と重ね合わせて生み出されたキャラクターがアール・ストーンです。
英語の原題の「Mule」はスラングで「運び屋」という意味です。「Mule」は本来、動物の「ラバ」のことを指します。ラバが物資を運ぶ動物として重宝されていたことから転じて「運び屋」という意味を持ったようですね。
ちなみに、主人公アールの娘役はイーストウッドの実娘であるアリソン・イーストウッドが演じています。父であるクリントとの共演はなんと34年ぶり。アリソンがまだ小さい時に共演していたんですね。
アリソンは父親と激しく対立する娘役ですが、今は父親と非常に仲が良いので、演じるのが難しかったとインタビューで答えていました。父への怒りの感情を表現する為に、過去の記憶を遡って表現したそうですよ。といっても幼い頃に両親は離婚しているので、ほとんど父親との記憶なんてないんじゃないでしょうかね。
そんな映画『運び屋』の感想ですが、イーストウッドらしい堅実で分かりやすく面白い映画でした。もう見たまんまです。頭を捻って何かを考える必要はありません。感じろ(feel)です笑。
イーストウッド作品はいつも真っすぐで、素直で分かりやすいので、本当に考える必要がないんです。本当ですよ笑。これはイーストウッド監督自身も「頭で考えるのではなく心の声を聞くべきだ」と言っているので、それが彼の映画作りにおける哲学だと思います。まさに、感じろです笑。
これは彼の演出にも表れていて、アリソンも言っていたんですが、考えて演じようとすると、
「考えるな、考えるな」と言われたそうです。緻密に計算するのではなく、その場の空気感(ライブ感)とか感情を大切にする演出方法ですね。
それにしてもイーストウッドは本当に素直な人で、「この映画のメインテーマは何ですか?」という質問に「学ぶことに年齢は関係ないということだ」と答えています。ちょ、ちょ、それ答えちゃあかんやろ笑。
ということで映画『運び屋』のテーマは「学ぶことに年齢は関係ない」です笑。監督が言っているのだから間違いありません笑。
しかし、それではあまりにもアレなので、ここからは映画をもう少し掘り下げて解説していきたいと思います。
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『運び屋』ネタバレ解説
レオ・シャープについて
『運び屋』のモデルとなったレオ・シャープ(Leo Sharp)ですが、麻薬の運び屋をする前はデイリリー(ユリ)栽培の達人として名の知れた人物でした。
一時期は園芸事業が繁盛し名声を築きましたが、インターネット時代の波についていけず事業は低迷したようです。
その後、2009年に麻薬カルテルの運び屋を始めました。
なぜ彼がその世界へ足を踏み入れたのか、詳しいことは分かっていません。多分、彼が園芸事業で雇っていたメキシコ人からのツテも考えられる、ということです。
映画にあるように仲間達からは親しみを込めてエル・タタ(お爺ちゃん)と呼ばれ、優遇措置を受けていました。
彼が運んだルートは西のアリゾナ州から東のミシガン州デトロイト迄なので、ほぼアメリカ大陸を横断する長距離ドライブです。安全運転で音楽を聴きながら、ほのぼのとドライブしていた様子が映画で描かれていますね。
まさかこんな老人が麻薬を運んでいるとは警察のパトロールも思わないので、本当にジャンジャン麻薬を運んでいました。
2010年だけで1トン以上も運んでいます。これはなんと750万人に配れる量です。本当に伝説の運び屋です笑。
彼は捕まった時、映画と同じようにリンカーンのピックアップトラックに乗っていました。あの高級車リンカーンです。
彼は2011年に捕まるまで、100万ドル以上は稼いでいたと推測されています。
そのお金の大部分を園芸事業の再建のためにつぎ込んでいました。レオ・シャープは本当に花が好きだったんですね。
その後、裁判で3年の実刑判決が出ましたが病気のため1年で釈放されています。そして92歳で亡くなるまで、自由を謳歌したそうです。
レオ・シャープの逮捕時の様子は以下のビデオでご覧になれます。
伝説の運び屋の登場
序盤は人物紹介です。
オープニングではデイリリーの園芸事業で成功し、コンテストでは賞も貰い、最盛期を極めていたアール・ストーンが描かれます。
それと対比して、仕事では成功したけど、家族をないがしろにし娘の結婚式にすら参加しないというダメ親父っぷりも描かれます。
そんな自分勝手なアールにツケが回ってきたのか、インターネットの新しい時代についていけず、事業は破綻してしまいます。いわゆる成功と挫折。
引退後、孫の結婚パーティーに出席しても、家族と喧嘩してしまい居場所もないアール。家族と上手くいってないことがここでも強調されていますね。
そんな折、キーとなる男が登場します。アールに運転手の仕事を持ちかける男。
運転するだけでお金がもらえ、孫に援助もできると考えたアールは安易に仕事を引き受けてしまいます。
しかしそれは、麻薬を運ぶ仕事だった!アールの人生が劇的に変化する瞬間です。
それと並行して、シカゴの麻薬取締局に新しく赴任してきたコリン・ベイツ捜査官(ブラッドリー・クーパー)の紹介と捜査開始のシークエンスが挿入されていきます。
すぐに内通者を見つけたベイツ捜査官は、なかなかのキレ者ということが見て取れます。
ロビン・フッドのように
麻薬を運ぶ仕事にどんどんのめり込んでいくアール。回数を重ねる毎に報酬もどんどん上がっていきます。車も高級車リンカーンのトラックに替えてご機嫌。
自身の園芸事業の再興だけでなく、退役軍人会を助けるためにお金を寄付した際、称賛を浴びたアールはめっちゃ気分が良くなります。ワシなんか良いことしてる!笑。
犯罪を犯しながら人助けをするアールの姿に、イーストウッド監督は「ロビン・フッドを重ねた」と言っています。
ロビン・フッド気取りで、重大な犯罪を本当にのほほんとこなしていく姿を見ると、アールって人がかなりの楽天家のように感じられました。きっとイーストウッドも楽天家なんだろうな。
一方、麻薬カルテルのボス・ラトン(アンディ・ガルシア)はアールを重宝し、監視役のフリオ(イグナシオ・セリッチオ)まで付けちゃいます。もう完全に組織の一員。それは二度と引き返せないことを意味します。
ここで自分はビックリしたシーンがあります。それは、まさかのイーストウッドのベッドシーン。
ボスに招かれたパーティーで女性二人と絡むシーンを見て、ほんとイーストウッドは凄いな!と思いました。
普通こんな大巨匠は、そういった恥部を見せませんよね。それを自身の演技で披露したところに彼の偉大さが出てるんじゃないかと思います。ただのスケベだってことも勿論あると思います笑。
ただ、爺さんでもまだ元気なんだよ!ナメンじゃねえぞ!って事を訴えたかったんじゃないでしょうか。イヤ、ほんとに笑。だってわざわざあのシーンを入れる必要ないでしょ?
ちなみに、フリオ達を中西部のポークサンドの美味しい店に連れて行った時、店の客からジロジロと見られていましたが、あれはちょっとステレオタイプ的に大袈裟に描いたと思います。南部や中西部といえども、あそこまであからさまな態度を表す地域は今はないんじゃないでしょうか。
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ラスト結末
アールを重宝していたボスのラトンが消され、彼を取り巻く状況は一変します。
せっかくフリオとも仲良くなったのに、組織からの締め付けは厳しくなり命の危険を感じるアール。それだけでなくDEAの手も迫り、追い詰められていく。
そうした中にあってようやくアールは家族の大切さに気づきます。モーテルで鉢合わせたベイツ捜査官にも「家族を一番大切にしろよ」とアドバイスします。
その後、元妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)が倒れたとき、彼は多分生涯で初めて仕事をほおって妻に会いに行きました。そして愛を告げます。
惜しくも妻を亡くしてしまうアールですが、ここでようやく家族そして娘との和解が訪れました。
イーストウッドもきっと仕事一筋で家族を犠牲にしてきたのでしょう笑。そのことへの贖罪が込められた映画でもある気がします。
警察無線に傍受されたアールの行動はすでに筒抜けでした。最後の仕事の途中でベイツ捜査官によって、遂に伝説の運び屋アールは捕まります。
「人生のほとんどを間違えて過ごした。何よりも大切なのは家族だ。」
すべてが終わりアールが得た教訓は、家族を愛することでした。人間はいくつになっても学ぶことが出来る事を彼は教えてくれました。
刑務所でデイリリーを愛でるアールの姿で物語は幕を閉じます。
まとめ
『運び屋』はかなり王道のストーリーです。そして家族の物語でもありますね。刺激的な実話にちょっと無理やり「家族」を押し込んだ感はありますが、それでも楽しめました。
また、イーストウッドほどこの役がぴったりハマる人もいません。監督が「これは自分でやろう」と思ったのは正解ですね。最高のはまり役でした。
それにしてもイーストウッドは王道のストーリーを紡ぐのがホントに上手ですね。王道の面白い映画を作るのって非常に難しいと思います。これは才能がないとなかなか出来ません。
イーストウッド監督作品って、ほとんどがシンプルに面白くて楽しめませんか?実に凄い事だと思います。
90歳近くでまだまだ衰えない才能を発揮するクリント・イーストウッドを本当に尊敬しますし、これからも末永く映画を作って欲しいな~と心から思える、そんな映画が『運び屋』でした!
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