映画『グランド・ジョー』予告編動画
『グランド・ジョー』作品情報
2013年アメリカ映画(原題:JOE)。
ラリー・ブラウンの小説を『スモーキング・ハイ』のデヴィッド・ゴードン・グリーンが監督したヒューマンドラマ。アメリカ南部を舞台に貧困家庭に生きる15歳の少年と森林伐採業を営むアウトローとの交流を描く。
キャスト:ニコラス・ケイジ、タイ・シェリダン、ゲイリー・プールター、ロニー・ジーン・ブレヴィンズ、エイドリアン・ミシュラー。ベネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ(新人俳優)賞受賞(タイ・シェリダン)。
『グランド・ジョー』あらすじ
働かずアルコール中毒のロクデナシの父親を持つゲリー(タイ・シェリダン)は家族を養う為、森林伐採業を営むジョー(ニコラス・ケイジ)の元で働くことになる。ジョーは悲惨な家庭環境のゲリーを憐れみ、いつしか父親のような感情を抱いていくが、過去の因縁がジョーを次第に苦しめていく…。
『グランド・ジョー』感想批評
ニコラス・ケイジ主演で贈る映画『グランド・ジョー』はアメリカ南部を舞台に、アウトローの男と少年の交流を描いたヒューマンドラマです。この映画が扱うのは南部の貧困層と違法な森林伐採問題、それに従事する日雇い労働者の姿です。
映画の中で木に毒を注入して腐らせる様子を描いていますが、これはアメリカで社会問題として取り上げられた違法な方法です。違法ゆえにそれを請け負う主人公のジョーは良い稼ぎを得ていると思われ、面倒見が良かったり女性に好かれるというわけです。
また、ゲリーの父親を演じたゲイリー・プールターは映画の撮影地のテキサス州オースティンで監督が見つけたホームレスの素人役者。役と同じように彼もアルコール中毒で、演技というより素のままの姿ということです。劇中で息子のゲリーが「立って!」とじゃれ合っているシーンがありますが、プールターは本当に立てなかったそうです。残念ながら彼は映画が封切られる前に逝去されています。
そんな『グランド・ジョー』ですが、この映画良く分からなかったなあという感想を持った人は多いんじゃないでしょうか。
ニコラス・ケイジ最高傑作と謳う文句もありますが、トンデモナイです。ニコラス・ケイジの最高傑作は『リービング・ラスベガス』です。『グランド・ジョー』ははっきり言ってダメな映画の部類に入ると思います。
まずダメ親父が途中から突拍子もなく暴走する姿は、物語として破綻しています。暴力は振るうけど、息子とじゃれあったり一緒に仕事へ行く親父が、何故急に凶悪な犯罪者になるのでしょうか。本当に笑ってしまいます。淡々と進む物語に映画的アクセントを加えるため適当に入れたアイデアにしか思えない。似たような映画なら『ウィンターズ・ボーン』のほうが桁違いに良いと思います。
と文句は沢山ありますが、ここからは『グランド・ジョー』が一体何を表現した映画なのかを解説・考察していこうと思います。
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『グランド・ジョー』ネタバレ解説
この映画は一体何なのか?
この映画はアメリカ南部のことを描いています。原作者のラリー・ブラウンは南部文学の作家です。南部は南北戦争後も黒人への差別や人種隔離政策などが近年まで露骨に行われており、現在でも保守的なアメリカの伝統を受け継いでいる地域です。
本作の主なキャラクターは、ジョーとゲリーとその父親。ゲリーの親父がやけに老けていると思いませんでしたか?
実はその老けっぷりは、「古いアメリカ南部」を象徴しているからです。仕事もせずアルコール中毒で全く役に立たない姿を古びた伝統的な南部の姿と重ね合わせています。
オープニングで息子が親父に語る「尻拭いをするのは僕たちだ。そんなの間違ってる」というセリフは南部の将来の姿を語っていると同義です。
つまり、親父は古い南部で、ジョーは現在の南部、ゲリーは未来の南部を象徴しています。
そう考えると、現在の南部が古い木(南部)を死なせて、ラストに新しい苗木(南部)を植える橋渡しとなっており、3世代が一つに繋がっていることが理解できます。それゆえジョー(現在)がゲリー(未来)のことを自分次第で「良いようにも悪いようにもなる」と言っているのです。ジョーは勿論、善良で勤労な姿をゲリーに残しました。
それが『グランド・ジョー』で描かれていることです。
犬をしつこく探したのは何故?
ジョーの犬は従順で良い犬です。それは善良さを表しています。
犬を探すシーンに長い時間を割いたのは、暴力的な衝動を抑えれない以前の悪い自分と訣別し、ジョー自身が善良な自分を取り戻す必要があったからです。それは過去の暴力的で差別的な南部と訣別し、善良さを選択したいと願う現在の南部の苦悩と重なります。
なので、犬(善良)を探すというジョーの行動は、南部の贖罪を表しています。
売春宿にいる誰構わず吠える犬をジョーが嫌う理由は、昔の暴力的な自分の姿を見ているからです。
信号で止まった時、横のジープに乗っていた女性は誰?
車に乗っているジョーが信号で止まった時、横にいたジープの女性が意味ありげにジョーを見ていました。あれはジョーの別れた元奥さんじゃないでしょうか。
その後のシーンで、知人の黒人警官がジョーの孫についての会話をしています。
まとめ
ジョーは暴力的な自分と善良な自分の間で苦悩していました。でもゲリーの父親代わりとして、その良い精神を伝えることはできたと思います。
最後にゲリーがジョーの犬を引き取ったのは、善良さをゲリーが引き継いだ表れでしょう。そしてオープニングと対比してラストでは、新しい世代に託された希望の木が植えられました。
ということで『グランド・ジョー』は、アメリカ南部の苦悩と葛藤がジョーを通して表現された映画でした。
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