『シェイプ・オブ・ウォーター』ネタバレ解説感想 現代寓話の結末は?


『シェイプ・オブ・ウォーター』予告編動画

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『シェイプ・オブ・ウォーター』作品情報

2017年アメリカ映画(原題:The Shape of Water)。
ギレルモ・デル・トロ脚本・監督による半魚人と女性の恋を描いた恋愛ファンタジー。2017年ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。「シェイプオブウォーター」の意味は「水の形」。※追記、第90回アカデミー作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞受賞。

出演サリー・ホーキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、オクタヴィア・スペンサー、マイケル・スタールバーグ。

『シェイプ・オブ・ウォーター』あらすじ

舞台は1960年代冷戦時代のアメリカ。政府の秘密研究施設で清掃員として働く発話障害のイライザ(サリー・ホーキンス)は、映画の中のロマンスに憧れを持つ女性。ある日、南アメリカから運ばれてきた不思議な生物を見て好奇心を持った彼女は、酷い扱いを受けるその生き物に同情心を抱き、卵をあげたり音楽を聞かせたりする。そして徐々にその不思議な生き物と心を通わせるようになるが…。

『シェイプ・オブ・ウォーター』感想評価

『シェイプ・オブ・ウォーター』は米ソ冷戦時代のアメリカを舞台に、半魚人と発話障害のある女性との恋愛を描いたファンタジー映画です。世界的にも高評価で数々の賞を受賞している作品です。(※追記、アカデミー作品賞他4冠受賞)

ギレルモ・デル・トロ監督が小さい頃に観た映画『大アマゾンの半魚人(1954)』から着想を得ており、また1962年のソビエト映画「Amphibian Man」にも似ているということです。

半魚人役には『パンズ・ラビリンス』のパン役でお馴染み、デル・トロ作品常連のダグ・ジョーンズが演じています。

『シェイプ・オブ・ウォーター』は一言で表すとアンチ「美女と野獣」です。決して美人とは言えないサリー・ホーキンスを主演に持ってきたあたりにデル・トロの明確な意図が表れています(映画の中の彼女は大変魅力的で美しい)。

「美女と野獣」の野獣はイケメンの王子様に戻りますが、野獣を愛したはずなのにそんなのおかしいじゃないか!結局美男美女かよ!という「美女と野獣」に対抗して『シェイプ・オブ・ウォーター』では、外見や種族さえも超えた純粋な愛の形が描かれています。「美女と野獣を描くなら、野獣は変身させない」と語る監督の強いこだわりが見て取れます。

また映画の登場人物は、障害者、黒人、ゲイといったマイノリティーな人々です。

マイノリティー社会を、ステレオタイプなアメリカ人ストリックランドと対比させて描くことにより、現代社会が抱える差別や偏見といった問題をも風刺しています。

そんな『シェイプ・オブ・ウォーター』の感想ですが、この映画はギレルモ・デル・トロの職人技が光る一品と言えます。

60年代の背景を細部までこだわった美術面の美しさは目を見張るものがあります。半魚人の造形も素晴らしく、最初は醜く感じるけど段々可愛く思えてくる。美術賞を獲るに相応しい完成度の高さです。

ただドラマ面では、半魚人を逃がすというクライマックスを早い段階にもってきてしまい、そこから少々間延びした感があります。ストリックランドのシーンも結構しつこく描いていて、もうちょっと削っても良かったんじゃないかと個人的には思います。

ドラマ面での不満はありますが、全体的に見ると職人が作った美術品を見ている感覚で、美しい映画です。

というわけでここからは、キャラクターの紹介を交えながら映画の解説と監督が込めた真意を考察していきたいと思います。※結末までのネタバレを含むので観賞後にご覧ください。



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『シェイプ・オブ・ウォーター』ネタバレ解説

何故冷戦時代なのか?

この頃はちょうど米ソの宇宙開発競争が熾烈を極めていた時代で、半魚人が宇宙開発の何か役に立つのではないかという設定にはぴったりです。宇宙開発競争の様子は映画『ドリーム』で詳しく描かれています。

また人種差別が平然と行われていた時代。イライザのような障害者や黒人は人間として扱われていなかったので、政府の極秘施設で半魚人のような機密事項に近寄っても、白人達は特段気にしない様子が描かれています。パイを売っているダイナーにおいても、黒人客を帰らせたり、ゲイのジャイルズに態度を急変するような差別描写があります。

つまりマイノリティーが極端に虐げられていた時代です。そんな時代だからこそ、愛を描くことに意味があります。

さらに、ロシアのスパイ・ホフステトラー博士が良い人として描かれているのは大変面白いことです。アメリカ映画のロシア人は大体悪者なのに、デル・トロはメキシコ人なので、アメリカ人とは違う視点になるという面白さ。アメリカ万歳への強烈な皮肉に思えます。

イライザ・エスポジト(サリー・ホーキンス)

幼い頃の首の怪我が原因で声を発せず、手話で会話をする女性。政府の研究所で清掃員として夜中から朝まで働く。友達はゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と隣に住むジャイルズだけ。ダンスが好きで映画のようなロマンスに憧れている。

そんな時出会った半魚人と心通わせるようになる。イライザが彼に強く惹かれたのは、自分の欠陥や不完全さを知らず、ありのままの自分を受け入れてくれるから。今まで人々に虐げられてきた孤独なイライザにとって、自分と同じ境遇の半魚人は、仲間であり同志だ。だからイライザにとって、他の人間よりも自分に近い存在(同種)に感じたのだろう。

同じ虐げられた者同士がシンパシーを感じるのは当然の帰結なのかもしれない。そこには言葉もいらない種族も超えた愛の形があった。

ちなみにレコードで半魚人に聞かせていた曲はグレン・ミラー楽団演奏の「I Know Why」。幻想でダンスした曲はアリス・フェイが歌う「You’ll Never Know」。どちらもハリー・ワーレン作曲。

映画館で上映されていたのは『恋愛候補生(mardi gras)』と『砂漠の女王(The Story of Ruth)』。

半魚人(ダグ・ジョーンズ)

アマゾンで捕まり政府の研究所に連れてこられた生き物。地元では神と崇められていた。エラ呼吸と肺呼吸をするので宇宙開発に利用できないかと研究対象になる。

ストリックランドに虐められたり、用済みになって解剖されそうになったり散々だが、イライザ達によって救出される。傷を治したり、髪の毛を増やす不思議な能力がある。手話で意思疎通もでき、卵と音楽が好き。

ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)

イライザの隣に住む売れない画家。イライザの良き理解者。出版社に絵を売り込んでも相手にされず、ゲイでもあることから世間からの疎外感を感じている。

はじめは半魚人を逃がす計画を拒否したが、ダイナーで好意を寄せていた店長に酷い扱いを受けたことから、心変わりし協力するようになる。彼もまた虐げられてきた一人である。



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ストリックランド(マイケル・シャノン)

軍から派遣された研究所警備主任。半魚人を電気棒でいじめた為、反撃され指をちぎられる。郊外の一戸建て、家族、キャデラック(車)と、1960年代アメリカの典型のような男。

未来を夢見ており、「ポジティブ・シンキング」が愛読書で、自分は強い男だと言い聞かせている。その反動からか子供時代から好きなキャンディーをいつも舐めている。きっと安心するのだろう。また、聖書に詳しいが中身が全く伴っていない姿はまるでパリサイ人のようである。

キャデラック、WASP(ワスプ)、差別、偏見、未来、見せかけの強さ。ディスイズアメリカ!な男がストリックランドだ。外国人監督だからこそ描ける外から見たアメリカの滑稽な姿である。

※WASPはホワイト・アングロサクソン・プロテスタントの略だが、今日では意味が拡大しマイノリティに属さないほとんどのエリート白人層を指す語となっている。

ラスト結末

ゼルダの家を訪れ脅したストリックランドは、ゼルダの夫からイライザが半魚人を匿っていると聞かされる。

イライザ達が半魚人を運河に放そうとした丁度その時、ストリックランドが到着し、半魚人とイライザは撃たれ倒れる。

しかししばらくすると半魚人は起き上がり、青く光りながら胸に手をかざすと撃たれた傷は消える。「お前は神か?」と驚くストリックランドの喉元を、半魚人は鋭い爪で切り裂く。

そしてイライザを抱え海へと消える。ジャイルズとゼルダはその様子を見送る。

水中では半魚人がイライザにキスをすると、首の傷跡がエラとなり呼吸が出来るという奇跡が起きる。抱き合う二人は仲良く、海の彼方へと消えていった。

まとめ

以上のようにこの映画は、愛の形を水の形に例え描いています。水が容器によって形を変えるように、愛もまた愛する対象によって柔軟に形を変える。

思うに『シェイプ・オブ・ウォーター』は多様性うんぬんじゃなく、ただシンプルに、愛について力強く語っています。愛ははじめから多様性を凌駕しているので。

そして「お前は神か?」というセリフと最後の詩から、神の愛(アガペー)についての聖書的なメッセージも含まれているのがデル・トロらしいと思います。

つまり半魚人がイライザの障害を障害と見ず、ありのままの姿の彼女を完全に愛したように、神のあなたへの愛も全く同じものです。イライザはあなたです。

また、デル・トロが寓話という形を借りて、ワスプをパリサイ人と強烈に皮肉っていることを、アメリカ人達はちゃんと理解しているのでしょうか笑?

寓話というのはいつも、遠い世界のおとぎ話じゃなく、今を語っているのですね。

愛なんだよ、愛っ!ってデル・トロからのメッセージが『シェイプ・オブ・ウォーター』でした。

ギレルモ・デル・トロ監督他作品はこちら

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