『最後の追跡』感想評価と解説(ネタバレなし) 現代版西部劇!


映画『最後の追跡』予告動画

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『最後の追跡』作品情報

2016年アメリカ映画(原題:Hell or High Water)
テイラー・シェリダンのオリジナル脚本をデヴィッド・マッケンジーが監督したクライムドラマ。キャストにジェフ・ブリッジス、クリス・パイン、ベン・フォスター、ギル・バーミンガム他。第89回アカデミー賞で作品賞を含む4部門ノミネート。Netflixで配信。

『最後の追跡』あらすじ

不況にあえぐテキサスの田舎町。トビー(クリス・パイン)とタナー(ベン・フォスター)のハワード兄弟は、亡き両親が遺した牧場を差し押さえから守るため、連続銀行強盗に手を染める。慎重派なトビーが練った完璧な計画のおかげで兄弟は次々と襲撃を成功させていくが、刑務所から出所したばかりのタナーの無謀な行動のせいで次第に追い詰められていく。一方、定年を目前にしたテキサス・レンジャーのマーカス(ジェフ・ブリッジス)は、相棒のアルバートとともに事件の捜査に乗り出すが…。

『最後の追跡』感想評価と解説(ネタバレなし)

『最後の追跡』は銀行強盗を繰り返す兄弟と、それを追うテキサスレンジャーの追跡劇を描いた犯罪映画です。アメリカではアカデミー作品賞にもノミネートされているし、評価はすこぶる高いようですね。

ちなみに「hell or high water」の意味は「何が何でも」です。地獄がこようが洪水がこようが何が何でも乗り越えるぜ!という意味でつかわれます。

感想として、映画の訴えるテーマは凄く良いけど、ストーリー的に既視感は否めません。
「ノーカントリー」的であるし「俺たちに明日はない」的でもある。そもそも二人組強盗のロードムービーはたくさん作られてきたわけで、どこかで観たなと感じてしまうのはやむを得ない。

それでも『最後の追跡』の評価が高い理由は―インディアンとカウボーイ。過去のアメリカと現在のアメリカ。この構図を上手に切り取って、現代版西部劇を描いたからだろうと思う。だからアメリカ人には受けがいい。

ストーリー的に真新しさはまるでないけど、面白くないというはことはないので、クライムドラマとして単純に楽しめて、最後まで見飽きない作品にはなっています。

どっちにしろこの映画は、社会風刺映画ですね!

テキサスレンジャーとテキサス州

まずテキサスレンジャーですが、アメリカで最も古い警察組織と思えばOK。テキサス州の法執行機関としての伝統的な名残として残っているだけで、役割は警察と同じ。

ただテキサスレンジャーは、白のカウボーイハットにブーツを身に着けなくてはならなかったり、しきたりがあるので、ポリスのような制服は着ません。映画と同じ格好です。それがジェフ・ブリッジス扮するテキサスレンジャー。

そのルーツは1823年まで遡り、はじめは自警団として誕生しました。その後、歴史と共に権限が拡大し現在にいたります。レンジャーになるには法執行官としての長いキャリアが必要なので、経験豊富な人材が集まっていると言えます。

テキサスレンジャーを題材にした映画も多く作られており、メジャーリーグ球団「テキサスレンジャーズ」はこの名前由来です。

そして西部劇で有名なテキサス州。昔はカウボーイ文化の象徴である牧畜業で繁栄していました。

1900年代初頭に油田が発見されてから、映画で描かれている通り、現在は石油がたくさん採れます。なので自分の土地で石油が採れるということは、牧場主にとって生活が一変する大チャンスです。そのように現在はエネルギー産業を主に発展しており、農業や牧畜業も今だ健在です。



アメリカの貧困

この牧畜業を営んでいるのが主人公兄弟のカウボーイ家族。代々牧場を経営していたのだけど、母の代で銀行からの借金が返せず、担保の牧場を取られてしまうかもという状態。

マーカスの相棒アルベルトが言います「昔は白人がインディアンから土地を奪って、今は銀行が白人から土地を奪う」と。

牧場の跡取り息子トビーは返済期限までに借金を返すため、お金を借りた銀行からお金を盗むという大胆な計画を実行に移す。

銀行が、返せない借金を個人牧場主に背負わせて土地を強奪している現状を、テキサスの人々は知っています。というより怒っている。だから銀行強盗をする兄弟に協力的なのでした。テキサスにはテキサスの正義がある。

このことから白人中間層の衰退と、トランプ大統領誕生のアメリカの背景を垣間見ることができます。アメリカ国民の富を搾取しつづけてきた、メガバンクをはじめとするグローバル企業への痛烈な批判が、映画から読み取れます。

もちろんアメリカだけじゃなく、日本も同じように搾取されています。日本人が気づいていないだけで。日本も中間層はなくなりつつあり、貧富の差が拡大しているという現状です。

日本のような先進国の場合、絶対的貧困じゃなく、相対的貧困なので分かりにくい。ハンバーガーは買えるけど、家賃を払うお金がない。月々の支払いに追われ、貯蓄ができない。日本の貧困率は先進国35ヵ国中(OECD)アメリカに次ぐ世界第6位です(約16%で6人に1人が貧困)。

トビーが言っていたように、貧困は代々続く病気みたいに、親から子供へと伝染していきます。

まとめ

『最後の追跡』は、そういったアメリカの貧困を背景に、搾取される側が、搾取する側をやっつける現代版西部劇であり、痛快な復讐劇です。

銃をバンバンぶっ放すのではなく、現代の方法で頭を使って復讐するので、現代版西部劇(モダンウエスタン)なのです。また、テイラー・シェリダン復讐三部作の第2弾となっています。

ストーリー的には既視感たっぷりだけど、このような背景を踏まえれば、また違った見方で楽しめるのではないでしょうか。

テイラー・シェリダン復讐三部作他の作品

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