映画『ウインド・リバー』予告編動画
『ウインド・リバー』作品情報
2017年アメリカ映画(原題:Wind River)
「ボーダーライン」「最後の追跡」の脚本家テイラー・シェリダンが監督デビューしたクライムサスペンス。インディアン居留地で起こった事件を描く。主演は『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』でも共演したジェレミー・レナーとエリザベス・オルセン。他キャストにギル・バーミンガム、ジョン・バーンサル、グラハム・グリーンほか。第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞受賞。
『ウインド・リバー』あらすじ
舞台はワイオミング州。FWS(合衆国魚類野生生物局)職員コリー(ジェレミー・レナー)は、家畜を襲うピューマ(クーガー)を狩るため今日も雪山に出動していた。仕事後、別れた妻の家へ行き息子を預かった後、義父の住むウィンドリバー居留地へ向かう。義父からピューマ狩りを頼まれたコリーは、探索中、雪原で女性の死体を発見する。
すぐさま保安事務所に連絡した後、FBIから女性捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)がやってくる。慣れない寒さと吹雪のなかで捜査は難航し、ジェーンはこの地に詳しいコリーに捜査協力を頼むのだった。捜査が進む中、事件は思いもよらぬ方向へと展開していく。
『ウインド・リバー』ネタバレ感想評価と解説
※ネタバレが多少含まれる感想と解説になっています。
映画『ウインド・リバー』は、FBIの女性捜査官とハンターが協力して、インディアン居留地で起きた事件を解決していくクライムサスペンスです。雪の中、ライフルを構えたジェレミー・レナーがいたので「ボーン・レガシー」かなと一瞬思いました。
監督デビューのテイラー・シェリダンは「ボーダーライン」「最後の追跡」に続き今作でも、暴力と法を超えた復讐をテーマに描いています。
感想として、小作ですが人間を丁寧に描いた重みのある良作だと思います。いい映画です。
サスペンスであり、重厚な人間ドラマでもあり、アクションも少しあったりして大変見応えがあります。評価もなかなか高い作品で、カンヌで監督賞も取っています。
舞台はウィンドリバーというインディアン居留地(Indian Reservation)です。そこはインディアンの人々が一定の自治を与えられて住んでいる地域です。わざわざそこが舞台ということは居留地の複雑な歴史や問題が、映画の背景にあるということですね。
アメリカ人ならすぐ理解できるんでしょうけど、日本人にはピンときませんよね。
ちなみにワイオミング州はアメリカ西部にあり、山岳地帯と牧草地帯が広がっています。元々多数のインディアン部族が先住していた地域でもあり、カウボーイも多くいます。現在ワイオミング州のインディアン居留地はウィンドリバーのみとなります。アラパホー族とショーショーニー族が暮らしています。
居留地は全米にいくらかあるのですが、そのほとんどが貧困に苦しんでいます。劇中でトレーラーで暮らしてる人々を描写していますね。また居留地のほとんどは荒地なので厳しい自然とともに生きているとも言えるでしょう。
居留地では産業を持てず就労先がありません。ナバホ族のような大きな居留地は、観光業の収入があるとこもありますが、ほとんどの場合住人はわずかな年金や補助金で生活しています。
仕事を求めて居留地外に出る住人も多くいる一方で、居留地に留まりわずかな年金頼りに生活する人々も多くいます。年金は本当に微々たるものなので、貧困が常にはびこっている状況です。そこではアルコール依存症も多く、問題となっています。
そういうわけで、主人公達は白人ですが『ウインド・リバー』はネイティブアメリカンの物語です。
主人公のコリーは元妻がネイティブアメリカンの女性で、その間に二人の子供がいました。しかし長女をある事件で亡くしてしまい、そのことで妻とも別れ現在はひとりです。ですからインディアンのことを良く知る人物がコリーです。また、ハンターなので雪山の知識にも通じていて、射撃の腕も超一流という凄い人です。
そしてもう一人の主人公であるFBI捜査官ジェーンは、居留地のことをあまり知らない人です。FBIも人手不足なので彼女ひとり送られてきたという状況で、居留地のことを良く知るコリーに捜査協力を頼みました。
コリーが雪原で見つけた女性の遺体は、コリーの娘の親友でした。その事件を巡って物語は展開していきます。
映画にある通り、インディアンの女性はアメリカの行方不明者数に数えられないようです。
FBI捜査官がひとりだけというのも、そこにある不公平な酷い状況を炙り出しています。また居留地の保安官たちも常に人手不足という状況も見てとれます。
映画は自然の壮大さと厳しさをよく描写していて、そこには法律を超えた自然の厳しい掟があることを物語っています。それはまるで、インディアン居留地も合衆国の法律に無視された、生と死、弱者と強者のみが存在する厳しい世界であることのメタファーな気がします。
「オオカミは不運な鹿を狩るわけじゃない、弱い鹿を狩るんだ」というコリーの台詞が印象的でした。
『ウインド・リバー』はサスペンスとして観れるいっぽう、アメリカという国におざなりにされたネイティブアメリカンの現状と権利向上を訴えている映画です。
コリーという人物、彼の抱える大きな傷、やるせなさ、怒り、そして強さを見るとき、そこに本来のネイティブアメリカンの姿が重ね合わさる気がします。彼らは壮大で厳しい大自然に生きた尊厳ある戦士だったのだから。
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