映画『フォックスキャッチャー』予告動画
作品情報
2014年アメリカ映画(原題:Foxcatcher)。
デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンとレスリング金メダリストの間に起きた実話を基に映画化したドラマ。『マネーボール』のベネット・ミラー監督。第67回カンヌ映画祭監督賞を受賞。キャストにスティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、シエナ・ミラー。
『フォックスキャッチャー』あらすじ
レスリング選手のマーク(チャニング・テイタム)は、オリンピック金メダリストにもかかわらず貧困生活を送っていた。いっぽう兄のデイヴ(マーク・ラファロ)はレスリング協会からコーチのオファーを受けていた。失意に暮れる中、ある日一本の電話がはいる。それはデュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)からだった。
デュポンに従うまま彼の住む大邸宅を訪れるマークは、彼が運営するレスリングチームへ破格の条件でのオファーを受ける。人生を変えるチャンスだと喜ぶマークは、デュポンのチーム「フォックスキャッチャー」に入ることを決意するが…。
『フォックスキャッチャー』ネタバレ感想・解説
『フォックスキャッチャー』はアメリカの大財閥デュポン家の御曹司と、彼が作ったレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に入ったオリンピック金メダリストの兄弟との関係を描いた、実話ベースの映画です。
レスリング場面が多々出てきますが、決してレスリング映画ではないのでご安心ください。スポーツドラマじゃなく人間ドラマです。また大金持ちの生活を垣間見ることが出来るので、その辺も見どころです。
『フォックスキャッチャー』は予備知識なしで観たので、この奇妙な話が実話だということにかなり衝撃を受けました。事前情報なしで観れたのはラッキーだったと思います。まさかの展開でビックリしました。
感想としてはかなり面白い映画です。終始、得体の知れない不穏な空気が画面を漂流し、ジョン・デュポンとマークの奇妙な関係に息をのまずにはいられません。
精神的な危うさを見事に表現したスティーブ・カレルの演技もこれまた絶妙です。こいつはだいぶ危ない奴だなって、誰もがジョンの内に秘めた狂気を感じることが出来ます。あまりにも上手すぎて、最後までスティーブ・カレルとは気づきませんでした。チャニング・テイタムもまた、無口で筋肉頭の精神的に脆いレスリング選手を見事に演じています。
映画に出てくるデュポン家は、ご存じのとおり世界的大企業デュポン社の創業家であり大財閥です。創業者のエルテール・イレネー・デュポンにより南北戦争時代の火薬製造で巨利を上げ、第一次、第二次世界大戦では爆弾・火薬製造を独占、巨大財閥に成長しました。アメリカ3大財閥の1つに数えられます。
映画に出てくるジョン・デュポンは、もちろんデュポン財閥の一員ですが、創業者のエルテール・イレネー・デュポンには子孫が1500人以上もおり、御曹司といっても多数の中の一人であるに過ぎません。デュポン財閥のメインストリームからは外れた存在であると思われます。
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この映画は実際に起きた事件の話ですが、事実と異なる部分が結構あるので、実話を基にしたフィクションと言えます。
実際には、兄のデイヴが「フォックスキャッチャー」でコーチになるもっと前に弟のマーク・シュルツはチームを去っているので、兄弟がチームに同時期にいたことはありません。またデイヴがコーチになる頃には、マークはレスリングを辞め柔術をしています。
よって兄のデイヴを招いたのでデュポンとの関係に亀裂が入ったこと等はフィクションです。本物のマークはもっとタフな人間で、映画のマークのように兄への劣等感から精神的に脆くなる等はフィクションです。
映画ではこのあたりの騒動がジョンの凶行の原因のひとつであるように捉えることが出来ますが、実際にはマークはこの事件とは全く無関係であると言っていいでしょう。事件が起きたのはマークがチームを去ってからずっと後のことで、マークよりむしろ兄デイヴ・シュルツのほうがデュポンとの関係は長いです。
もっと関係が深いのは映画には出てこないジョン・デュポンが寵愛していたブルガリア人レスラー、バレンティン・ヨルダノフという人物です。バレンティン・ヨルダノフはフォックスキャッチャーで練習していたオリンピック金メダリストでありジョン・デュポンの大のお気に入りでした。デュポンは彼に遺産の80%を残す遺言を書いています。よってマークをヨルダノフに置き換えたほうが、もっと事実に近いんじゃないでしょうか。
なんにせよジョン・デュポンが愛情に飢えた孤独な大富豪だったということに間違いはなさそうです。そしてコカイン常用により、徐々に精神的に壊れていったのでしょう。
映画『フォックスキャッチャー』はレスリングに全く興味のない人でも、その奇妙な空間と関係に釘付けにならずにはいられないシュールな衝撃作です。