『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』予告
作品情報
2018年アメリカ映画(原題:Sicario: Day of the Soldado)。
メキシコ麻薬カルテルとFBIの闘争を描いた前作『ボーダーライン』の続編であり、アレハンドロを主人公にしたスピンオフでもあるクライムアクション映画。「Soldado」はスペイン語で兵士の意味。
監督ステファノ・ソリマ、脚本テイラー・シェリダン、キャスト:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、イザベラ・モナー、ジェフリー・ドノヴァン、キャサリン・キーナー、マシュー・モディーン他。
感想評価
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』は前作の影の主人公でもあったアレハンドロに焦点をあてて、麻薬カルテルとアメリカ政府の攻防を描いたクライムアクションです。『ボーダーライン2』となります。
監督は前作のドゥニ・ヴィルヌーヴに代わってイタリア人監督のステファノ・ソリマ、脚本は前作に引き続きテイラー・シェリダンが担当しています。
テイラー・シェリダンは『ボーダーライン』シリーズを3部作だと語っています。『ボーダーライン3』製作は本作の興行成績次第だったらしいですが、一応全世界で7500万ドル以上稼ぎましたので、現在企画中のようですよ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督も戻る可能性があるということです。
また、前作で重厚なアンビエントでダークな世界観を表現した音楽のヨハン・ヨハンソンが急逝されたので、その跡を継ぎ、前作でチェロでコラボしたヒルドゥル・グズナドッティルが音楽を担当しています。あの「ブオオオーン」という重低音のテーマ曲は今作でも使われ、ヨハン・ヨハンソンへのトリビュートともなっています。
主役のベニチオ・デル・トロとジョシュ・ブローリンの共演は今回で5回目。言葉を交わさなくても男同士無言で通じ合える、息の合ったコンビっぷりは見事でした。
また、麻薬王の娘を演じたイザベラ・モナーちゃんはまだ17歳。女優や歌手としても活動しています。今作の為に長い髪をバサッとショートに切って、髪の毛はチャリティーに寄付したそうですよ。
そんな『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の感想ですが、前作が良作過ぎただけに、とても平凡なサスペンス・アクションに成り下がったな、という評価です。
残念ながら、前作の衝撃や息をのむような緊張感を味わうことはほとんど出来ませんでした。見所であるはずの銃撃戦も単調な印象でした。
また、アレハンドロについてもっと深く掘り下げてくれるのかな?と思ったけど、彼はよくいる「少女を守るヒーロー」と化してしまって、かなりがっかりしました。
加えて、アレハンドロのアクション的な見所が早撃ち場面くらいしかなく、前作の無敵のアレハンドロがすっかり弱くなってたことが消化不良です。
やはり監督の圧倒的な才能の差が出てしまった感が否めません。
前作のあの画面から湧き出る独特な緊迫感はどうやって構築したのだろう?ソルジャーズデイを今をときめく天才ドゥニ・ヴィルヌーヴが撮ったらどんな風に仕上げたのか、そればっかりに興味が行ってしまいました。
撮影のロジャー・ディーキンスが不在だったことも影響しているのかもしれません。アップで撮るのか、俯瞰で撮るのか、どの角度にカメラを置くのか。カメラワークはとても重要ですもんね。
うーん脚本が詰め込み過ぎたのかなあ。アレハンドロのジレンマを描き切れていなかった印象。この映画ではそこが重要なのです。だって彼のジレンマこそ「善悪の境界線」という作品のテーマの核ですからね。
でも脚本上、たとえさらっと書かれていたとしても、そこを演出するのが監督の手腕だと思うので、ステファノ・ソリマ監督には物足りなさを感じずにはいられません。
だいぶ辛口批評ですが、冒頭のテロから広がる展開と国境問題というタイムリーな設定は見所ですし、決して悪い出来の映画ではないです。前作を知らずにこの映画単体で見たほうが面白いと感じたかもしれませんね。
そういうわけで、ここからは『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のあらすじを結末(ネタバレ)まで追いながら、映画を詳しく解説していこうと思います!
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ネタバレあらすじ
国境問題
アメリカの不法入国者は毎年推定100万人以上。
映画に描かれていますが、今は麻薬よりも人身売買のほうが儲かるということで、アメリカ・メキシコ国境は人身売買ビジネスの温床になっています。
ICE(移民・関税執行局)によると、2017~18年の1年間で国境警備隊によって確保された
密入国者約16万人が送還されました。そこには約6000人の犯罪者やギャング構成員、数十人のテロリストが含まれています。
なので、映画が描く国境を巡る背景は本当のことです。
アメリカの法律では「キャッチ&リリース」と揶揄される法があって、例え不法入国者を捕まえたとしても裁判開始まで釈放されてしまいます。これは事実上オープンボーダーを意味します。だって、もちろん逃げちゃうでしょ?
この移民法に対して疑義を投げかけ、移民法改正を訴えているのがトランプ政権です。
トランプ大統領は合法的にやってくる移民については大歓迎しています。不法ではなく、合法的に手続きを得て欲しいと。これは何度も演説で言っています。
一方、これに反対を唱えるのが米民主党やリベラル系メディア。アメリカはもともと移民の国なので、移民に対して寛容でいようという伝統があります。
それだけではなく、不法移民は民主党にとっての大きな支持基盤なので、選挙に勝つため絶対に逃したくないという思惑もあります。
というわけで、国境の壁建設を巡る議論は尽きることがありません。
マットとアレハンドロ
そんな背景の映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』はテキサス州の国境地帯から始まります。
米国国境警備隊がメキシコからの不法入国者をブラックホークやパトカーで追跡、確保する様子が映し出されます。しかし、その内のひとりの男が自爆を行い警備隊に負傷者を出します。
さらにその後、カンザスシティのスーパーマーケットで謎の複数の男たちが自爆テロを決行。15人の一般市民の犠牲者が出ます。
それを受けてアメリカ国防省はテロとの戦いを宣言。その任務のため、アメリカ特殊部隊が
ソマリアへ乗り込み、バシールという男を確保します。
空から特殊部隊が降り立つこの場面は圧巻でした。米なら他国でこんなトンデモないこともしちゃうんだろうなという妙な説得力があります笑。
そこでCIAのマット・グレイヴァ―(ジョシュ・ブローリン)がバシールを尋問し、テロリストと麻薬カルテルの繋がりを聞き出します。
一方、テキサス州マッカレン(国境の町)に住む普通の高校生ミゲル(イライジャ・ロドリゲス)は、いとこにそそのかされてカルテルの仕事を手伝うハメになります。
その頃アメリカ政府は麻薬カルテルをテロ組織と認定し、カルテル同士の内紛・弱体化を画策します。カルテルのボスの子供を誘拐し、敵対組織の仕業にみせかけ、抗争を誘発するのです。その汚い仕事を受けたのがマットでした。
マットという男はかなり仕事に忠実です。「なんでもしますよ、なんでも言っちゃってくださいよ」みたいな態度です笑。
ここで結構面白いことが描かれています。それは、その任務を行う兵隊たちは「外国人を使え」と命令されている事。つまり傭兵ですね。なぜならアメリカの関与をバレないようにする為。本当にダーティな仕事でしょ?
そういう訳でマットはコロンビアにいる旧知の暗殺者アレハンドロ・ギリック(ベニチオ・デル・トロ)に仕事を依頼します。アレハンドロは家族の仇であるカルロス・レイエスに関する仕事だったのですぐに引き受けます。
ちなみに、路上でアレハンドロがカルテルの弁護士を襲うシーンがありますが、この撃ち方(早撃ち)はベニチオ・デル・トロのアドリブです。
イザベル
マット達が仕掛ける誘拐劇のターゲットは、カルテルのボスの娘イザベル・レイエス(イザベラ・モナー)。校長にも歯向かう勝ち気な性格の少女。
この作戦から参加したメガネのスティーヴ(ジェフリー・ドノヴァン)は前作にも登場しましたね。この人の喋り方、気にいってます笑。
チームはイザベルの学校からの帰宅を狙い、誘拐に成功。
早速彼女を連れアメリカに戻ったアレハンドロは、今度は警察に成りすまし、イザベル救出を自演します。さらにイザベルをメキシコに再び輸送します。
これは、レイエス・カルテルの敵対組織の領内に彼女を置くことで、カルテル同士の抗争を仕掛けるため。
しかし、その道中でマット達はメキシコ連邦警察から奇襲されてしまう。
その際イザベルが逃げ出し、アレハンドロは彼女の後を追うため、チームから離れます。
なぜメキシコ警察が襲ってきたのかというと、カルテルは警察内にも仲間が沢山いるからです。機密保護は不可能とマット達も言ってました。
その後、アレハンドロはイザベルを無事に見つけ、共にアメリカ国境へと向かいます。
一方、アメリカに戻ったマットは作戦失敗をCIA副長官のシンシア(キャサリン・キーナー)に責められカチンときます。
また、自爆テロの実行犯がアメリカ人だったことが判明し、作戦中止とイザベル抹殺が上から命じられます。もうムチャクチャです。
マットが衛星電話でそれをアレハンドロに伝えると、彼はイザベル抹殺を拒否します。
アレハンドロが躊躇なく拒否した様を見ると、いくら冷酷な暗殺者と言えども、その外道な行為を受け入れることは到底出来なかったんですね。
ここがアレハンドロの良心のボーダーラインでした。
ラスト結末
アメリカの命令を拒否し、一転追われる身となったアレハンドロはイザベルを密入国させることを思いつく。カルテルが管理する密入国者用のバスに乗り込めば国境を越えられる。
しかし運が悪いことに、同じ場にミゲルがいた。アレハンドロはミゲルに顔バレしていたので、ギャング達に捕まってしまう。
そして、アレハンドロはミゲルによって頭を撃たれ倒れる。
この一連のシーンですが、あの無敵のアレハンドロがギャング相手に何もできずにあっさりとやられてしまったのは個人的に超不満です笑。
その後、ギャング達はイザベルを連れ国境を越えるが、待ち受けていたマット部隊に全滅させられる。マットはイザベルを救出し、証人保護プログラムで保護することにした。
一方、頭を撃たれ死んだかと思われたアレハンドロだが、生きていた。銃弾は頭ではなく頬を貫通したので、一命を取り留めた。
1年後、ショッピングモールで働くミゲルの元にアレハンドロが現れる。アレハンドロはミゲルに「未来について話そう」と語り、物語は幕を閉じる。
ラストのドア閉めエンディングは『ゴッドファーザー』みたいでしたね。さすがイタリア人監督。
ラストの意味ですが、三作目への繋がりを示唆しているんじゃないでしょうか。次の主人公はまさかのミゲルかもしれません。
まとめ
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』は国境における戦いだけでなく、それに関わる人々の良心の境界線も描いています。
屈強な兵士といえど上からの命令は絶対です。私はそこにサラリーマンの悲哀を重ねました。
彼らは全く日本のサラリーマンのようでした。上からの理不尽な命令に従い、嫌な仕事もこなしていかなければならない。まあ世界中どこも同じなんでしょうけど。
でも、あの仕事に忠実なアレハンドロでさえ、人間の尊厳を守るため絶対に越えては行けない
善悪のラインがあり、それを描いた事にこの映画の価値があると思います。
そしてその意思はマットにも伝染し、最後は彼も命令に逆らいイザベルを保護しました。本当にこれは重要なことです。
私達もアレハンドロが受けたような、それぞれの感じるモラルや正義の一線を踏み越える圧力を受けた場合、決して屈してはならないと思います。そこは人として絶対に守るべき領域なんじゃないでしょうか。
たかが一介の兵士、されど兵士。「兵士の日」という題名にそんな想いが込められていたんですね。
以上、無法な世界で生きる兵士達でさえ、その人間としての誇りを守った映画が『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』でした!