『プリズナーズ』ネタバレ解説と感想 謎を解く!


「プリズナーズ」予告動画

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『プリズナーズ』作品情報

2013年アメリカ映画(原題:Prisoners)。
『ブレードランナー2049』のカナダの奇才ドゥニ・ヴィルヌーヴがハリウッドデビューしたクライムサスペンス。娘を誘拐された父親役を『X-MEN』のヒュー・ジャックマンが熱演。共演にジェイク・ギレンホール、テレンス・ハワード、ヴィオラ・デイヴィス、マリア・ベロ、メリッサ・レオ、ポール・ダノ。

『プリズナーズ』あらすじ

家族と過ごす感謝祭の日、平穏な田舎町で幼い少女が失踪する。手掛かりは微々たるもので、警察(ジェイク・ギレンホール)らの捜査は難航。父親(ヒュー・ジャックマン)は、証拠不十分で釈放された容疑者(ポール・ダノ)の証言に犯人であると確信し、自らがわが子を救出するためにある策を考えつくが…。

『プリズナーズ』感想・ネタバレ解説

プリズナーズ』は普通に観賞すると、ちょっとひねりのあるサスペンス映画程度で終わると思います。

娘を誘拐され犯人探しに突っ走る父親と、冷静に追う刑事。そして物語は2転3転していき、ドンデン返しの結末。そんなサスペンス映画で終わり。という見方でも全然いいと思います。それなりに楽しめます。

しかしこの映画はドゥニ・ヴィルヌーヴらしく暗喩が散りばめられた映画なので、裏の意味があり、二重に楽しめる作品となっています。それがこの映画の魅力でしょうか。サスペンスとして観ればどうってことない映画です。

まず『プリズナーズ』の意味ですが「囚人たち」ですよね。ですから鑑賞後、そっかみんな結局は「囚われ人」なんだ!なんていうベタな解釈をしちゃうかもしれません。もちろんそれも1つの側面ではあるのですが、タイトルの意味は「すべての人間は罪人(つみびと)である」という聖書からきています。

そういうわけで、この映画の裏の意味は、というより真のテーマは「信仰」です。
オープニングから「主の祈り」で始まる通り、この映画は完全に信仰の映画ですね。

※ここからネタバレになるので観賞後にご覧ください。

主の祈り

物語は「主の祈り」に即して進行していきます。

天にまします我らの父よ
願わくば御名(みな)をあがめさせたまえ
御国(みくに)を来たらせたまえ
御心(みこころ)の天になるごとく地にもなさせたまえ
我らの日用の糧を今日も与えたまえ
我らに罪を犯す者を我らが赦すごとく
我らの罪をも赦したまえ
我らを試みに会わせず 悪より救いだしたまえ
国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり アーメン。


「われらの日用の糧を今日も与えたまえ」

鹿を撃ち、その肉を感謝祭で食べるところから始まります。感謝祭はアメリカの祝日のひとつで、七面鳥を食べることで有名ですよね。感謝祭の由来は、17世紀イギリスからアメリカへ入植してきたピューリタン(清教徒)たちが飢饉で多数の餓死者を出し、現地のインディアンからトウモロコシの種などを貰って生き延びた時の、最初の収穫を神の恵みとして祝ったことから始まります。神に感謝する日ですね。映画では、その日に子供たちが失踪します。


「御心(みこころ)の天になるごとく、地にもなさせたまえ」

神への感謝祭の日に失踪、ということで計り知れない神の心を映画は表現しています。信心深い父親のケラーは「神様なぜ感謝祭の日に娘が失踪するのですか?」って言いたいはずです。

「我らに罪を犯す者を我らがゆるすごとく、我らの罪をも赦したまえ」
その後、アレックスという容疑者がすぐ捕まり、証拠不十分ですぐ釈放されます。釈放されたアレックスが、娘が歌っていた歌を口ずさんでいたことから、ケラーはアレックスを誘拐し拷問します。そしてその罪を赦してくださいとケラーは神に祈ります。

この後、容疑者が2転3転していくのですが、まるで迷路みたいですよね。

2人目の容疑者であるボブ・テイラーが迷路を描いていました。そして真犯人も迷路が好きです。この迷路にハマるのがロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)です。

父親のケラーは迷路にハマっていないのがポイントです。ケラーは初めからアレックスが怪しいと睨んでいました。



3人の罪人(つみびと)

この映画では、3つの立場の罪人(つみびと)が出てきます。

まず、ケラー・ドーヴァー(ヒュー・ジャックマン)。
ケラーは敬虔なクリスチャンで、父親を自殺で失っているのですが、それでも信仰を捨てずにいました。そして災害にいつも備えていて地下室には備蓄品がいっぱい。ノアの箱舟のノアを彷彿とさせます。さらに娘が誘拐されるという絶望のなかでも、彼の信仰は逆に強くなっていきます。このことから神の側です。

次に、ホリー・ジョーンズ叔母(とその夫)。
ジョーンズ夫妻は子供を癌で亡くしたことにより、信仰を捨て、子供たちを誘拐するようになります。神が自分たちの子供を奪ったので、神に代わり他の家の子供を奪うという、神への反逆を行います。自分たちと同じ目に合わせることで、他の家族の信仰を捨てさせることが目的です。夫のほうはそのことを神父に告白したので、神父により殺されました。妻のホリーは夫の跡を継ぎ、子供たちを誘拐し続けていました。キャンピングカーで誘い、麻薬入りのジュースを飲ませる手法です。夫がヘビ好きだったことも象徴しているとおり、悪魔の側です。

そして、ロキ刑事。
ロキという名前珍しいと思いませんか?これは北欧神話に出てくる神々の名前なんですね。巨人から子供を守ったという伝説があるようです。ロキ刑事登場のシーンで干支の話をしていることや、フリーメイソンの指輪を嵌めていることからも、異邦人(異教徒)を象徴する存在です。

このように神と悪魔と異教徒という構図が分かれば、この映画の謎は簡単に解けてしまいます。

ヘビに騙され、迷路にはまるロキ刑事

異邦人であるロキ刑事は神の協力者となります。神の協力者となったのは、結果としてそうなったというのがミソです。

というのも、ロキ刑事は神を信じているわけではなく、彼が信じているのは彼の経験や哲学です。彼にとっての神は、経験や哲学です。だから異教の神の名ロキなのです。全能の神に頼らず、自身の哲学や経験に頼っているので、いつまでも事件の真相にたどり着けず迷路にはまります。

事件の真相に迫るのは常に、神に祈るケラーのほうでした。映画では明白にその差を描いています。

ラスト結末

穴に閉じ込められたケラーが、娘の笛を握りながら「全能の主よ、娘をお守りください」と祈ると、ロキ刑事の車がホリー宅に到着します。ここはさらっと描かれていますが、とても重要なシーンです。

ケラーは自分が死にそうな状態なのにもかかわらず、自分の無事ではなく、娘の無事を神に祈りました。これこそが『プリズナーズ』の本当に描きたかったテーマだと思います。この祈りこそがまさに十字架なのです。自分を犠牲にして娘の無事を祈るケラーは自分を捨てたのでした。自分を捨て十字架にかかったのは誰ですか?信仰は十字架にはじまります。(ケラーは肌身離さず十字架のネックレスを付けています。)他者のために自分を犠牲にすること、これが本当のですね。

神はその真実の祈りに即座に応え、ロキ刑事によってホリーは倒され、アナは無事に救出されるのでした。

まとめると、映画で描かれているのは、
神を信じるケラーが、信仰を捨て悪魔についたホリーと戦い、勝った。
神と悪魔の代理戦争のお話です。

それだけではなく、神によって感謝祭の日に子供を失うという信仰を試されたケラーが、信仰を捨てずに己にも打ち勝ったという話でもあります。

そういったことで、次の祈りに繋がります。

「我らを試みに会わせず、悪より救いだしたまえ」
ラストでみんな助かりました。映画の流れ的に娘は助からないかなと思ったのですが、最後まで主の祈りに即した物語です。悪は滅ぼされ、それだけではなく、20年以上続いた子供の誘拐事件は解決し、アレックスは本当の親元へ帰り、という神の圧倒的な勝利で幕を閉じます。

初めに言及したように、神の側にいるケラーも罪人(つみびと)であることに変わりはありません。ケラーはアレックスを拷問するという罪を犯しています。それゆえ足を撃たれたり、穴に閉じ込められたりという試練が彼を襲います。

しかし失踪の原因にもなった娘が探していた笛によって、今度は父親が助かるという神の配剤をオチにもってきており、それが最後の祈りにふさわしい終わり方になっています。

「国と力と栄とは、限りなく、汝のものなればなり」
全能の神はすべてをお見通しだってことです。

以上のように『プリズナーズ』は二重に楽しめる作品となっているなかなか不思議な映画でした。真のテーマを全く無視しても映画としては楽しめる作品となっています。

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