『ノーカントリー』解説 3つの謎を解く!アカデミー作品賞の傑作


『ノーカントリー』予告編動画

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作品情報

2007年アメリカ映画。(原題: No Country for Old Men)
コーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』を原作にコーエン兄弟が製作したサスペンスドラマ。2007年度アカデミー賞で、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4冠を受賞した。出演は「メン・イン・ブラック」のトミー・リー・ジョーンズ、「夜になるまえに」のハビエル・バルデム、「トゥルー・グリット」のジョシュ・ブローリンほか、ケリー・マクドナルド、ウディ・ハレルソンなど実力派俳優が揃う。

『ノーカントリー』あらすじ

狩りをしていたルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は、死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)に追われることになる。事態を察知した保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)は、2人の行方を追い始めるが…。

『ノーカントリー』感想・解説

『ノーカントリー』は、コーエン兄弟の描く独特の間と緊迫感がたまらなく脳髄を刺激する、
怪作と言うのか、奇作というのか、そんな映画です。

コーエン兄弟が描く世界って、あの独特の空気感にすごく引き込まれて、奇妙な世界に身を置く感じがいつもします。彼らの映画はオープニングから、「ようこそ奇妙な世界へ」と看板が掛けられてるようです。まさに画面にクギ付けになってしまう。

舞台は1980年代のテキサス。偶然に麻薬密売に絡んだ大金を手にした男が、お金を持ち逃げして、組織と殺し屋に追われるお話。そこに保安官も加わって3者3様のドラマが展開される。

なんたってこの映画の見所は、ハビエル・バルデム演じる家畜用高圧ボンベを持ち歩く危険な殺し屋シガー。

この作品でアカデミー助演男優賞を受賞しているくらい、演技がすごい!気持ち悪い!彼は『ノーカントリー』以降、悪人役が多くなった気がします。非情で不気味で、邪悪な男シガーが強烈にはまっています。あのナイスな変な髪型も、不気味さを一層助長しています。見事です。

またカウボーイハットのジョシュ・ブローリンも、すごく演技がうまいな~と思いました。

ルウェリンは無骨さと哀愁が入り交じっていて、どこか憎めない男です。視聴者は彼を応援しながら、その逃亡劇を見守っていくでしょう。ひょっとしたら彼なら、無敵の殺し屋シガーを退治してくれるんじゃないか。そんな期待を背負わせる男です。

そして3人目の男、トミー・リー・ジョーンズ演じるベル保安官。あまり活躍しませんが実は主人公で、彼がこの映画を理解する上でのキーとなっています。彼は保安官として、うんざりする程嫌な事件を見てきているので、そんな理不尽な世界に対する怒りと失望を心に抱いています。

この映画は、難解な部分を気にしなくても充分楽しめる仕上がりです。しかしただ観賞しただけでは、危険な殺し屋が大暴れするだけの話、になってしまうかもしれません。初見では私も、何だこの映画は?と、思いました。

というのも、この作品はあちこちに暗喩が散りばめられており、特に説明もなく、謎な部分が多いからです。その謎をいくつか解説したいと思います。

※以下はネタバレとなります。



1「シガーとは一体何者なのか?」

シガーは「世界」を象徴しています。

我々の住むこの世界が、コイントスのような確率論的不条理な世界である、とこの映画は語ります。その理不尽な世界の塊がシガーです。

しかしそのシガーでさえ、急な交通事故に巻き込まれてしまうという、不条理な世界の一部でしかないということを表しています。

2「モスは誰に殺されたのか?」

メキシカンマフィアが車で逃げていること、関係のないプールの客まで殺されていることから
推測するに、モスはシガーに殺されたと思われます。

原作ではシガーに殺される描写があるようです。その後さらに、金を探しに夜にモーテルに戻り、ベル保安官とドア越しに鉢合わせています。

3「ラストで保安官が語った夢の意味とは?」

ラストでベルが2つの夢を語ります。
1つ目は親父にもらったお金を無くした夢。
2つ目は雪の積もった山道を親父と一緒に行く夢。

2つ目の夢の中で、親父さんはベルを追い越し、先に行って焚き火をして待っています。その火というのは、正義や希望の灯であると解釈します。雪の山道は、現実世界のこと。辛い現実世界でも、正義や希望を抱いて歩んでいくべき道筋を、親父さんは照らして先に行って待っている。この道をお前も進んで来い、と。

しかし、ベルはその親父から引き継がれた「信念(お金)」を無くしてしまったのです。
1つ目の夢は、ベルが理不尽な世界に打ちひしがれて、信念を無くして保安官を引退したことの暗示です。

だから2つ目の夢で親父さんに、どんなに辛い現実でも正義や希望の火を燃やして歩め、と言われたのかもしれません。それが、親父や祖父、先祖が歩んできた道だから。

「ノーカントリー」には、全世界へのそんなメッセージが込められているように思いました。
それがアカデミー作品賞をとった由縁かもしれません。

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