『ムーンライト』感想とネタバレ解説 ブルーが表すものは?


『ムーンライト』予告編

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『ムーンライト』作品情報

2016年アメリカ映画(原題:Moonlight)。
タレル・アルヴィン・マクレイニーの自伝的戯曲を原作に、バリー・ジェンキンスが監督・脚色したヒューマンドラマ。第89回アカデミー作品賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)、脚色賞受賞。出演トレヴァンテ・ローズ、アシュトン・サンダース、マハーシャラ・アリ、アンドレ・ホランド、ナオミ・ハリス、ジャネール・モネイ。ブラッド・ピット製作総指揮。「ムーンライト」の意味は、月光。

『ムーンライト』あらすじ

舞台はフロリダ州マイアミの黒人地区。ある日リトル(アレックス・ヒバート)と呼ばれる少年は、子供達にいじめられて逃げている際、ドラッグディーラーのフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられる。内気な少年リトルを不憫に思ったフアンは、家に連れて帰り、ご飯を食べさせ泊まらせてあげることに。翌日リトルを家に届けると、彼の母親ポーラ(ナオミ・ハリス)に邪険に扱われる。それからというものフアンは度々、リトルと一緒に遊ぶようになるが…。

『ムーンライト』感想評価

前半に感想。中盤以降は物語の解説(ネタバレ)をしていきます。

2017年アカデミー賞作品賞の映画『ムーンライト』は、ゲイの黒人男性の成長を少年期、青年期、成人期の3部構成でつづった物語です。

アカデミー賞で世紀の誤発表(「ララランド」と間違われる)があったことでも有名ですね。原作者で脚本も共同執筆しているタレル・アルヴィン・マクレイニーの半自伝的な話なので、ほぼ実話です。

監督のバリー・ジェンキンスとマクレイニーは、偶然にも同じマイアミのリバティ・スクエア(貧困地域)出身であり、映画も同じ場所で撮影されています。製作費もたった150万ドルという低予算でアカデミー作品賞まで獲っちゃったのだから、この映画には何か運命的なものを感じます。作られるべくして作られた映画というか。

『ムーンライト』は評価も勿論高く、数々の賞レースを席巻しました。アカデミー作品賞と聞くと、政治的な要素も絡んでくるので、個人的にはあまり信頼してません。作品賞より脚本賞や監督賞、男優賞などのほうが良作が豊富な気がします。

しかし『ムーンライト』は、そんな懸念を吹き飛ばしてくれる素晴らしい映画でした。

観ていて胸が深くえぐられるような、とても辛い話なんだけど、何故か美しい映画だと思いました。月明かりに照らされ青く光る主人公は、人間の本来持つ美しさの象徴のような。残酷な物語ではなく、人の普遍的な美しさを描いた物語という感想です。

この映画はマイノリティー、貧困、LGBT、ネグレクト(育児放棄)など様々な問題を含んでいて、どこか遠い世界の話のように感じるかもしれませんが、違います。

『ムーンライト』は、あなたの物語でもあります。本当です。

わたしたち人間のことを分かり易く3部構成で描いているので、ここからはその物語を解説していきたいと思います。



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『ムーンライト』ネタバレ解説

リトル(少年期)-アイデンティティの発育

貧困地域に住み麻薬中毒の母親を持つシャロン。母親からは育児放棄され、学校ではリトルと呼ばれ苛められていた。家にも学校にも彼の居場所はない。

そんな彼の唯一の友達がケヴィン。自分を理解してくれるケヴィンに、リトルは安らぎを感じていた。

そんな折、フアンというヤクの売人と出会う。キューバ出身のフアンは、リトルに自分の少年時代を重ね、優しく接する。リトルはフアンにも安らぎを感じるようになる。それは父親のような安らぎ。

「自分の将来は自分で決めろ。他の誰にも決めさせるな」と教えてくれるフアンは、リトルにとって本当の父親なのです。

ちなみにフアン役のマハーシャラ・アリは、泳げなかったリトル役のアレックス・ヒバートに撮影時、本当に水泳を教えたそうです。

そんなフアンもまた苦しんでいた。リトルに生き方の手本を見せてやりたいけど、自分はヤクの売人。しかもリトルの母親にドラッグを売る大元。その母ポーラに問いつめられた時も、何も言い返せなかった。

しかしリトルがフアンに対して感じていたのは、悪い部分よりもむしろ、自分を導いてくれる父性的な優しさと強さだった。

無垢な子供だからこそ人の本質を見抜けるリトルは、フアンの本質―美しいブルーな部分―を理解していた。リトルは彼のような強い人間になりたいと思った。

このようにリトルは、人間の自己(アイデンティティ)が確立する前のピュアな状態。

リトルのような過酷な環境に身を置いてなくても、リトルという状態はすべての人間が通る道。ぶち当たる壁の大きさが人それぞれ違うだけ。

シャロン(青年期)-アイデンティティの形成

高校生になったシャロン。青年期では本名のシャロンが使われる。ということは、シャロンである、という自己が確立している状態。

自分がゲイであり、学校では苛められ、マイノリティである黒人コミュニティにも属せないこと。それが自分だということを分かっている。

彼の心の拠り所は、いまだに友達でいてくれるケヴィンと亡くなったフアンの彼女テレサだけだった。

そんな愛するケヴィンが、いじめっ子たちに利用されたことに憤慨する。またケヴィンに対しても失望する。自分を庇わず、いじめっ子たちに屈したケヴィンに裏切られた感じがした。

殴られても何度も立ちあがるシャロンの姿は、理不尽な社会の圧力に倒れないで立ち向かう勇姿に見えた。それがシャロンの持つ強さだ。しかし彼の復讐は、暴力という形で果たされる。

第二部では、シャロンの良い面と悪い面が描かれる。それは自我が確立した証拠。

社会の理不尽な悪意に対して、こちらも悪意で対処しようと思ったことは誰しもあるだろう。彼の怒りは理解できる。だが本当のシャロンは、薬物依存の母親が金をせびってきても憐れんで渡してしまう、心優しき青年だ。

第二部で描かれる全ての人に共通するテーマは、自我の確立と社会との葛藤。シャロンが社会との葛藤で負った傷は、映画ポスターのシャロン(真ん中)にも表されている。

シャロンのように、他人に理解されず辛い思いをした経験はありませんか?
あなたにとってのマイノリティな部分は何ですか?

そのマイノリティな部分は、個性とも呼べるんじゃないでしょうか。



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ブラック(成人期)-自己の成熟とペルソナ

成長したシャロンは筋肉もムキムキで、金のネックレスに金の入れ歯という、まさにフアンに似た出で立ち。彼が社会から自分を防御するために出した答えは、フアンと同じ道を辿ることだった。

それは自己の上に覆った武装。偽りの強がり。私たちが会社や学校で見せる、それ用の顔と同じ。ブラックはペルソナだ。

第三部では物語は急ピッチに進む。ここで描かれているのは母とケヴィンとの和解。和解したのはケヴィンの電話がきっかけで、ブラックがシャロンに一瞬戻ったから。

まず母親と和解し許しを受け入れる。ここでシャロンの本来持つ優しさが表面化する。

そしてケヴィンと再会する。ケヴィンには「今のお前は、お前じゃない」と見抜かれていた。そんなケヴィンという安らぎによって、シャロンのブラックというペルソナは剥がされる。そこにはブラックがシャロンに戻り、ケヴィンに甘える姿があった。

ラストは、原点である美しいブルーに輝くリトルが現れ、物語は幕を閉じる。

シャロンが本来持つ美しいブルー、つまり愛によって、彼は再び立ち上がるだろう。
それがフアンが本当に伝えたかったことだから。

『ムーンライト』が描くブルーは、人の内面的な美しさ。人は人生の3部構成を経て、最後は原点に回帰する。だからこれは、あなたの物語。わたしたちの物語。

最後にこの映画を表すのに最もふさわしい、同じブルー繋がりのブルーハーツの名曲の歌詞で終わりにしたいと思います。

ドブネズミみたいに 美しくなりたい
写真には写らない 美しさがあるから
もしも僕がいつか君と出会い話しあうなら
そんな時はどうか愛の意味を知ってください

ドブネズミみたいに誰よりもやさしい
ドブネズミみたいに何よりもあたたかく

愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない
決して負けない強い力を僕は一つだけ持つ

リンダ リンダ リンダ

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